めまい
めまいの種類
めまいという訴えは、主に主観的な感覚を意味することが多く、多くの症状を含んでいます。例えば、「目がまわる」「フワフワする」「ふらつき」「気を失いそうな感じ」「立ち眩み」など、多くの症状がめまいとして一括りで表現されています。また、難聴/耳鳴り/吐き気などの症状を伴うこともあります。
めまいの原因や症状の起こり方は、非常に多彩です。めまいを訴える患者のうち、約50%は末梢性のめまいで、中枢性のめまいは10%程度であり、前失神が約10%、その他の原因によるものや原因不明の場合が併せて30%程度とされます。循環器系などの内科疾患や薬の副作用などの場合もあり、原因となる疾患によっては緊急の対応が必要となります。各々の疾患については、後で改めて説明します。
めまいの診断と治療には、詳しい問診と診察が欠かせません。どの様な症状で困っているかをしっかり把握して丁寧に診察することで、より良い診断と治療が可能になります。
めまいについて、現代医学的な対応と漢方による治療をまとめました。
めまいの原因と考えられる病気について
めまいの基本的な診察
めまいの診断は、「問診に始まり問診に終わる」と言われています。まずは、生命に危険を及ぼすようなめまいでないことを確認することが重要です。そして、回転性めまいか動揺性めまいなのか、または失神性めまいであるのかを区別するところから診察が始まります。
1.めまいの質
めまいは、症状の質によって以下の様に分類されます。ただし、めまいの質だけから原因を鑑別するのは難しいことがあります。
①回転性めまい
典型的には、グルグルと回るような感覚を中心としためまいです。
- 1)内耳性
- 回転性だけとは限らず、車酔いや船酔いをしたときの様な感じのこともあります。症状は、突発的で激しい場合があります。
メニエール病/前庭神経炎/良性発作性頭位性めまい症 など
- 2)中枢性めまい
- 神経の局在所見があり、はっきりしない持続性のめまいです。
小脳/脳幹病変/神経血管圧迫症候群/脳腫瘍/側頭葉てんかん/視野障害 など
②動揺性めまい
原因となる疾患は、非常に多彩です。
精神疾患/生活習慣/感染症/電解質異常/内分泌疾患 など
③失神性めまい
脳全体の一過性の血流低下によって引き起こされる症状で、失神と同様の鑑別が必要になります。
- ・心血管性:不整脈/心筋梗塞/腹部大動脈瘤破裂/肺梗塞/弁膜症/心筋症 など
- ・起立性低血圧:脱水/出血/パーキンソン病/Shy-Drager症候群/薬剤性 など
- ・神経調節性失神:血管迷走神経反射/状況性失神/食後失神 など
2.めまいの起きる状態
めまいが起きる状態に注目することで、めまいの原因が明らかになる場合があります。
代表的な疾患をまとめます。
①体位を変換するとき
良性発作性頭位性めまい症/小脳虫部病変 など
②起立時
起立性低血圧症(出血/脱水/降圧薬の副作用/パーキンソン病/Shy-Drager症候群/脊髄病変/糖尿病 など)
③上肢の運動時
鎖骨下動脈盗血症候群 など
④頸をひねった時
Powers症候群1)/Bow-Hunter症候群2)/Barre-Lieou症候群3) など
- 1)首の回転や過伸展時に動脈が圧迫されて症状が発生します
- 2)頭部の回転により、動脈が圧迫されて症状が発生します
- 3)交通事故など首や頸椎に強い衝撃を受けたことで発症します
⑤いきむ時
外リンパ瘻/血管迷走神経反射 など
3.持続時間
めまいが完全に治るまでの持続時間に注目することで、鑑別が可能になることがあります。症状の持続時間と疾患の関係は、以下の様になります。
①数十秒で治まるが、頭位の変換で再発
良性発作性当為性めまい など
②数分で完全に治るが、たまに再発
TIA/脳底椎骨動脈還流不全 など
③数時間続き、時々再発
メニエール病/脳底型片頭痛 など
④数日続く
前庭神経炎/蝸牛炎/中枢性めまい など
4.めまいに伴って起きる症状
めまいが起きた時、他の症状も同時に起きていることがあります。それらの症状に注目することで、めまいの原因が明らかになる場合があります。
①耳鳴り/難聴
内耳性めまい(メニエール病/突発性難聴)、小脳/脳幹の病変 など
②神経症状
中枢神経障害の可能性 など
③胸痛/動悸
心血管性の可能性があります。
5.薬物の使用
服用している薬物の副作用として、めまいが起きていることがあります。
原因となる薬物は非常に多くの種類が考えられますが、特に以下のような薬には注意が必要です。薬を飲み始めた時期とめまいの症状が起きた時期などに注目し、可能であれば服薬を止めてみることで原因が明らかになる場合があります。重篤な疾患の治療などで服用が欠かせない薬の場合もありますので、自己判断は避けて、具体的なことに関しては医師にご相談ください。
抗生剤/抗腫瘍薬/利尿薬/抗けいれん薬/抗不安薬/睡眠薬/降圧薬/抗ヒスタミン薬/アルコールなど
6.特に注意を要するめまい
めまいの原因によっては、緊急の対応が必要となる場合があります。以下に、代表的なものをまとめます。
①小脳/脳幹の梗塞や出血
中枢性のめまいの原因として、これらの疾患に注意が必要です。回転性のめまいの約15%は、これらの疾患を含めた中枢性の疾患であると言われています。確実な診断には、頭部のCTやMRIが必要となります。出血や梗塞の場合には、めまい以外の症状を伴う場合が多く、45歳以上のめまい患者で神経学的な異常所見がなければ脳血管障害の可能性は0.7%まで低下するという報告があり、詳細な診察が非常に重要です。しかし、原因となる出血の部位や大きさによっては、症状がめまいのみである場合もあり得ます。
診察では、5つのD(Dysesthesia感覚障害/Diplopia複視/Dysartheria構音障害/Dysphagia嚥下機能障害/Deafness難聴)や運動の失調(指鼻試験など)が重要です。
②椎骨脳底動脈乖離
若年発症の脳卒中で鑑別が必要です。50~70%でめまい以外に頭痛や頚部痛が起こります。診断には、画像検査が必要です。
③心原性失神
前失神のめまいで重要な疾患です。症状をめまいとして訴えることがありますが、「目の前が暗くなる感じ」や「気の遠くなる感じ」「血の気が引く感じ」などの訴えに注意する必要があります。
④消化管出血
めまいの訴えの中で緊急性が高い疾患のひとつに起立性低血圧があり、出血の原因として消化管からの出血が特に重要です。黒い便/心窩部の痛み/抗凝固薬や抗血小板薬の内服歴/NSAIDsやステロイドの内服歴が重要です。
7.めまいや嘔吐に関して、頭部CTを撮るべきもの
救急外来でも、めまいは非常に多くみられる症状ですが、頭部のCTやMRIを撮ることが必要な場合があります。以下のような症状がある場合には、緊急での対応が可能な病院を受診されることをお勧めします。脳梗塞の初期などでは、画像検査での診断が困難な場合があります。
- ①はっきりした頭痛や後頚部痛も一緒に訴える場合
- ②高齢で初めての回転性めまい/嘔吐
- ③高血圧
- ④嘔吐がひどく、途中からコーヒー残作用嘔吐になる場合
- ⑤頭部を安静/固定しても、めまいや嘔吐が持続するもの
- ⑥中枢性/末梢性の鑑別が困難なもの
8.よくあるめまい、その理学療法/生活上の注意
①良性発作性当為性めまい
体のバランスを感知する三半規管の中にある耳石のトラブルが原因となるめまいで、頻度が高く症状が特徴的であるため、臨床で重要なめまいの一つです。Epley法は、はがれて浮遊している耳石をもとの場所に戻すという理論的な方法であり、有用性も高く、広く用いられています。
②メニエール病
メニエール病は、めまいの原因として非常に重要な疾患です。ガイドラインでは、以下のような生活上の注意が挙げられています。
心身のストレス/過労/睡眠不足を避けて、規則正しい生活をするように注意することが重要です。性格的には、几帳面/神経質/勝気/完璧主義/自己抑制的などが多い傾向があるため、発想の転換を促し、悩みを気軽に相談する/趣味や娯楽を持つ/適度な運動をする等の心理的なアプローチも有用です。
漢方を用いためまいの治療
1.医療保険の病名による漢方治療
漢方では、めまいに対する多くの治療法があります。
まず、健康保険に収載されている漢方薬の中で、めまいを保険病名に含んでいる方剤を列挙します。
- 黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
- 出血/炎症/発赤/発熱 などの場合
- 五苓散(ごれいさん)
- 口喝と尿量の減少/頭痛/二日酔い/雨天で増悪 などの場合
- 半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんとう)
- 胃腸虚弱/頭痛 などの場合
- 苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)
- 頭痛/神経質 などの場合
2.水毒に関連しためまい
漢方では、めまいに対し「水毒(体内の水分の代謝障害)」として治療する場合が多くあります。代表的な生薬として朮/茯苓/沢瀉などを含む漢方薬を用います。水毒の治療で用いる主な漢方薬とその特徴を説明します。
- 苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)
- 立ちくらみ 等の場合
- 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
- 頭重や頭に何かをかぶっているような感覚がある場合
妊娠中や産後のめまい - 半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
- 不安感が強い場合、発作的/心悸亢進/のどのつまり感 等の場合
- 半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんとう)
- 胃腸虚弱、頭痛を伴う場合
- 真武湯(しんぶとう)
- 疲れやすい/血色が悪い/冷え症/下痢しやすい 等の場合
- 沢瀉湯(たくしゃとう)
- めまいが激しい場合
- 加味逍遙散(かみしょうようさん)
- 更年期障害/ホットフラッシュ/多愁訴 等の場合
その他にも、以下のような漢方薬を用いる場合があります。
- 女神散(にょしんさん)
- のぼせ/精神的な症状 等の場合
- 黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
- のぼせ/興奮/高血圧 等の場合
- 釣藤散(ちょうとうさん)
- 神経質/高血圧/頭痛 等の場合
- 抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)
- イライラが強い/易怒性/不眠 等の場合
- 白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)
- 強い口喝/頻尿/脳出血や梗塞の後 等の場合
3.少陽病(しょうようびょう)
少陽病と呼ばれる病態では、めまいは重要な症状として扱われています。少陽病は、「食事の味がおかしく、口が粘り、喉が渇き、めまいがする」状態です。
生薬・柴胡を含む処方(大柴胡湯/四逆散/柴胡加竜骨牡蠣湯/小柴胡湯/柴胡桂枝湯/柴胡桂枝乾姜湯/補中益気湯など)、瀉心湯の関連処方(半夏瀉心湯/甘草瀉心湯/生姜瀉心湯/三黄瀉心湯など) 等を用いて治療します。
4.五臓理論(ごぞうりろん)
漢方では、人体を「気/血/水」の3要素に分けて病態を論じることが多いのですが、めまいは水毒(水の代謝異常)と関連する場合が多い症状です。この水毒の原因として、人体の働きをコントロールする機能単位である五臓(肝/心/脾/肺/腎の五つで、現代医学の解剖学的な概念とは異なります)の作用が重要ですが、特に脾と腎の機能が関わる場合が多くあります。脾(消化吸収などの作用)/腎(生命エネルギーを蓄え、老化にも大きく関与する作用)などの衰えがある場合には、それらを治療することで体液の代謝が改善することを通じてめまいの治療を行うことがあります。
5.実際の治療
実際の治療を行う際には、1~4の考え方を組み合わせて、その方に合った治療を考えることが重要になります。また、治療法を考える際には、舌や腹部の診察などで総合的に状態を把握する必要があります。複数の漢方薬を組み合わせることや飲み方を調整することで、より良い治療を目指します。そして、治療の効果を判定しながら、臨機応変に治療を組み替えていくことも求められます。
具体的な治療に関しては、経験のある医師にご相談ください。
めまいのまとめ
めまいには、回転する感じやフワフワする感じなど多くの症状が含まれており、原因となる疾患も多岐にわたります。めまいの診断と治療では、丁寧な問診や診察が欠かせません。まずは、緊急で対処が必要な疾患を除外することが重要です。
めまいの治療では、様々な手段をうまく組み合わせて自分に合った治療を考えることが重要です。漢方では、患者さんの様々な症状や身体所見を指標にして治療を行い、めまいの症状を治療するだけでなく症状の背景となっている体質の改善を目指すことなど多くの選択肢を持っています。
当院では現代医学的な治療と漢方による治療を組み合わせることで、患者さんお一人おひとりにとって、その方に合ったより良い治療ができるよう取り組んでいます。めまいで悩んでおられる場合には、お気軽にご相談ください。
- 【参考文献】
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- ・門脇孝ら監修.メニエール病診療ガイドライン2011年版.良性発作性頭位めまい症診療ガイドライン(医師用)(2009).診療ガイドラインUP-TO-DATE2016→2017.メディカルレビュー社.2016年.782-789
- ・寺沢秀一.研修医当直御法度百例帖.第2版.三輪書店.2013年
- ・徳田安春編集.“見逃してはならない疾患”の除外ポイント.第1版.医学書院.2017年. 249-254
- ・林寛之.Dr.林の当直裏御法度.第2版.三輪書店.2018年. 23-27
- ・大塚敬節.症例による漢方治療の実際.5版1刷.南山堂.2000年. 554-564
- ・矢數道明.臨床応用漢方處方解説.増補改訂版第十一刷.2001年