アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎とは?
アトピー性皮膚炎は、ひどくなったり治まったりを繰り返すかゆみのある湿疹を主な症状とする病気で、多くの患者さんは「アトピー素因」と呼ばれる要素を持っています。
日本皮膚科学会では、アトピー性皮膚を以下の①~③の特徴を満たすものとして診断するとしています。
- ① 掻痒
- ② 特徴的皮疹と分布
- ③ 慢性・反復性経過
「アトピー素因」とは、
- ① 家族歴
- ② 既往歴:気管支喘息、アレルギー性鼻炎や結膜炎、アトピー性皮膚炎の中のどれかまたはいくつか
- ③ IgE抗体を賛成しやすい要素
以上の3つです。家族歴と既往歴には、じんましんを含みません。
湿疹は左右対称に分布することが多く、年齢により出やすい場所は異なります。
アトピー性皮膚炎の病態と生理
アトピー性皮膚炎は、多くの病因が関係しています。
① 皮膚の過敏
角質や表皮の異常。
② 炎症の機構
皮膚バリアの低下によるアレルゲンの侵入しやすさ、様々な細胞の関与、ヒスタミンなど化学伝達物質の放出 など。
③ かゆみ
かゆみは、アトピー性皮膚炎の特につらい症状のひとつです。アトピー性皮膚炎の皮膚病変からは、様々なサイトカインやケモカインが放出され、かゆみを引き起こします。これらの物質は神経に作用してかゆみを起こさせます。掻きむしってしまうと、皮膚炎がさらに悪化します。炎症などの変化によって、皮膚の知覚神経が表皮に近い部分まで伸びてくることでもかゆみが起こると言われています。また、痛みや熱や視覚などの刺激も痒みを引き起こします。他にも、交感神経や副交感神経のバランス、精神的/心理的な要因、生活リズムの悪化も痒みを引き起こし足り悪化させたりする要素となります。
アトピー性皮膚炎の疫学
アトピーの患者は日本で約51万人、世界では2億3000万人と推測されています。
アトピー性皮膚炎は、オセアニアや北欧で有症率が高く、アジア東欧で低いという報告があります。日本では、一般に乳幼児や小児期に発症し、加齢とともに患者数が減少し、一部が成人型アトピー性皮膚炎になると考えられています。1992年から2002年までの文献の解析によれば、乳幼児で6~32%、幼児で5~27%、学童で5~15%、大学生で5~9%とされ、報告によってかなり差があります。
アトピー性皮膚炎は、患者さんにとって大きな負担になります。例えば、アトピー性皮膚炎の患者さんで希死念慮(死にたいと思う気持ち)がある人は一般の人と比べて44%も高いという報告があり、リストカットや薬物の大量服用などの自殺企図は36%高いとされます。また、小児のうつ病とアトピーは関連があります。アトピー性皮膚炎では、皮膚の状態だけでなく患者さんの様々な悩みに目を向けることが大切です。
アトピーの重症度
1. 重症度の評価
科学的な信頼性と妥当性が検証されている重症度分類として、以下のものがあります。
- ・日本皮膚科学会によるアトピー性皮膚炎重症度分類
- ・SCRAD
- ・EASI
その他にも、皮疹の重症度やかゆみの評価など、様々な評価法があります。
2. バイオマーカー
以下のような項目によって評価します。
- 血清IgG値、末梢血の好酸球数、血清LDH、血清TARC値、血清SCCA2値 など
アトピー性皮膚炎の治療
1. 治療の目的
アトピー性皮膚炎の治療における目標は、症状が無いか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、治療もあまり必要でない状態に到達すること。その状態を維持すること。この2点にまとめられます。
2. 薬物療法
現時点で有効性と安全性が広く検討されている薬剤として、①ステロイド外用薬、②タクロリムス軟膏が挙げられます。これらをいかに選択して組み合わせるかが、重要となります。
① ステロイド外用薬
- ・ 緩解導入
- 適切な外用薬を選択し、炎症やかゆみを速やかに軽くします。
急性増悪の際には1日2回、落ち着いたら1日1回と減らします。 - ・ 維持
- 保湿剤なども併用し、緩解状態を維持します。
② プロアクティブ療法
再燃を繰り返す場合には、緩解導入した後に保湿外用薬に加えてステロイド外用薬やタクロリムス軟膏を週2回等の頻度で使用します。
③ タクロリムス
使用に際して、「アトピー性皮膚炎におけるタクロリムス軟膏の使用ガイドライン」が発表されています。
④ 抗ヒスタミン薬
かゆみは、QOLの低下や掻くことによる皮膚症状の悪化を引き起こします。かゆみのコントロールは、治療の上で非常に大切なポイントです。国内でも海外でも、抗ヒスタミン薬を使用する場合が多くあります。眠気などを避けるため、第2世代を選択することが推奨されています。
⑤ 漢方薬
後に、改めて詳しく説明します。
現時点で最も確かな治療法は、標準治療です。
標準治療は、エビデンス(科学的な根拠)のレベルが高く、実際の医療現場で行いやすい治療法です。アトピー性皮膚炎の標準治療は、ステロイドの外用薬であり、これは治療効果/副作用/費用などの面を考慮しても多くの患者さんに有用です。標準治療を十分な量を十分な期間、しっかり使うのがまず重要です。
アトピーは、良くなったりひどくなったりを繰り返します。
症状がひどくなった時の標準的な治療法を示します。
- ① アトピーが悪化したら、まずはステロイドの外用薬でしっかり治療します。1~2週間の間しっかり塗り、痒みがおさまっても手を緩めないのが重要です。その後、1日おきに間隔をあけて、1~2週間塗ります。
- ② さらに1~2週間、週に1~2回、間隔をあけてステロイド外用薬※を使います。 ステロイドを塗らない期間は、しっかりと保湿をするのがポイントです。
- ③ しっかり治療して症状を抑え、徐々にステロイドを減らして、最終的には保湿剤のみでコントロールすることを目指します。
※ ステロイドの副作用
① 長期使用で皮膚が薄くなる、② 毛がこくなる、③ ニキビができやすくなる など
アトピー性皮膚炎の生活指導
1. スキンケア
アトピー性皮膚炎では、皮膚のバリア機能と保湿因子が低下しています。
① 親水性軟膏や吸水性軟膏
低下している皮膚の保湿性を補います。
- ヘパリン類似物質含有製剤、尿素製剤 など
② 油脂性軟膏
皮膚のバリア機能を補充/補強/代償します。
- 白色ワセリンや亜鉛華軟膏 など
2. 入浴
36~40度が良いとされます。42度以上ではかゆみが起きやすくなります。
乾燥が強い部位などには、石鹸の使用を減らすなどのやり方が推奨されます。ナイロンタオルなど固いものでゴシゴシこする、石鹸のすすぎ残し等にも注意が必要です。
3. 刺激を減らす
唾液/汗/髪や毛が触れる/衣服で擦れるなどの刺激で症状が悪くなることがあり、これらの刺激に注意することが大切です。
4. 接触アレルギー
外用薬/化粧品/金属/消毒薬などに対するアレルギーで悪化することがあります。 接触を避け、パッチテストを行います。
5. 食物
特に乳児では、食物アレルギーが関係している場合があります。しかし、一般的にアレルギーになりやすいということだけで特定の食物を除去することは推奨されません。食物除去に際しては、専門医にご相談ください。
6. 特異的なアレルギー
血液検査でダニや花粉や動物など特定のものに対するアレルギーが確認できることがあります。当院では、必要な場合にはView39等の検査を行っています。医師にご相談ください。
7. ストレス
アトピー性皮膚炎がストレスによって悪化することは、経験的によく知られています。
症状のコントロールが悪いと心理的な負荷や症状を来すこともあり、個々の患者さんに対して心身医学的な側面にも注目して治療を考える必要があります。思春期以降の患者の場合、学校の試験前のストレスや睡眠不足などで皮膚の症状が悪化することを経験している場合もあります。
行動科学的なアプローチ、生活習慣やリラクセーションのトレーニングなども含めたストレスマージメントに関しては専門家にご相談ください。
8. 禁煙
能動的な喫煙とアトピーの発症は、統計学的に関係することが報告されています。また、受動的な喫煙もアトピーと関係があります。患者さん本人がタバコを吸う場合や家族に喫煙者がいる場合には、禁煙をおすすめします。
9. かゆみ
かゆみは、アトピー性皮膚炎の主な症状のひとつです。以下のような対策があります。
- ① 冷やす:冷凍庫で保冷剤を冷やし、タオルで包んで痒い場所に当てます。かゆみが余計にひどくなる場合は、他の方法を試します。
- ② 抗アレルギー薬:特に花粉症の季節に有効とされます。
- ③ クロタミトン/メントールなどの使用
- ④ 汗をかいたら早く洗い流す。
- ⑤ 保湿:特に秋や冬に重要です。
漢方を用いたアトピー性皮膚炎の治療
東洋医学の長い歴史の中でも伝説的な名医とされる扁鵲は、「病応を体表に察す」と言ったとされます。漢方では、皮膚の状態は患者の病状を反映するものとして重視され、「皮膚は内臓の鏡」という言葉もあります。
漢方の治療では、漢方的な診察を通じて病態を考え、それに合った治療を行います。実際に治療をしながら効果を判定し、臨機応変に対応していくことが重要です。
アトピー性皮膚炎に対する一般的な治療薬をまとめました。
1. 皮膚の所見からのアプローチ
① 滲出液
a) 滲出液が多い場合
水泡ができやすい場合には、「水毒(すいどく)」(体内の水分代謝障害)と考えることがあります。
- 消風散(しょうふうさん)
- 夜に痒みが強くなる、水泡ができてジュクジュクする 等の場合
b) 滲出液が少ない場合
血虚として治療することがあります。
- 当帰飲子(とうきいんし)
- 皮膚の乾燥と痒みが強い 等の場合
- 十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
- 皮膚の乾燥、疲労しやすい、月経困難症 等の場合
- 四物湯(しもつとう)
- 基本となる処方で、様々な処方の骨格となります。
例) 四物湯(しもつとう)+黄連解毒湯(おうれんげどくとう) → 温清飲(うんせいいん)、四物湯(しもつとう)+四君子湯(しくんしとう)+α → 十全大補湯(じゅうぜんたいほとう) など
- 温清飲(うんせいいん)
- 浅黒い、分泌物は軽度 等の場合
- 荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)
- 肌の色艶が悪い、咽頭炎や中耳炎などを起こし易い、等の場合。大人が多い。
- 柴胡清肝湯(さいこせいかんとう)
- くすぐったがり、咽頭炎中耳炎などを起こし易い、肌の色艶が悪い 等の場合。子供が多い。
② 赤み・分泌物の濃度・結痂の形成
a) 赤みなどが強い場合
熱や「陽」として考えることがあります。
- 白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)
- 分泌物が少ない。口が渇く。尿が少ない 等の場合
- 黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
- のぼせ、イライラ 等の場合
- 竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)
- 湿熱型、下腹部の緊張、尿路系の症状がある 等の場合
b) 赤みなどが弱い場合
寒や「陰」として考えることがあります。
- 当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)
- 冷え症、しもやけ、冷えで増悪する症状 等の場合
- 六味丸(ろくみがん)
- 乾燥、頻尿や腰痛など下半身の症状 等の場合
- 八味地黄丸(はちみじおうがん)
- 六味丸+冷え の場合
2. 皮膚所見以外からのアプローチ
① 消化吸収の能力が弱い場合
脾(消化吸収の機能)を補う処方、ニンジンや黄耆(おうぎ)などを用います。
- 補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
- 胃腸が弱く体力がない場合
- 小建中湯(しょうけんちゅうとう)
- 胃腸が弱く腹痛が起きやすい場合、特に小児や若年者
- 黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)
- 小建中湯より弱く、発汗がある場合
② 月経周期の影響、または慢性化した症状
お血(けつ)(漢方で考える人体の重要な要素「血(けつ)」のめぐりが悪い状態)としての治療を考えます。以下の薬を中心に、漢方的な舌や腹部の所見などを合わせて処方を選択します。
- 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
- 冷え、むくみ、月経困難、お血 等の場合
- 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
- お血の症状に広く使用
- 桂枝茯苓丸加(けいしぶくりょうがんか)ヨクイニン
- 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)+皮膚症状(ニキビなど)
- 便秘があれば、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)・通導散(つうどうさん)・大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう) なども考えます。
③ 浮腫・頭痛・めまい 等がある場合
水毒(すいどく)(体液の代謝障害)として治療を考えます。
- 越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)
- 湿潤、むくみ 等の場合
④ 不安、緊張、易怒、抑うつ 等がある場合
漢方や中医の五臓理論の機能単位である「肝」の機能を考えます。実際の治療では柴胡剤が中心になることが多いので、以下にまとめます。
- 柴胡(さいこ)剤
- 生薬・柴胡を含む処方のグループです。
一般には、大柴胡湯(だいさいことう)、柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)、四逆散(しぎゃくさん)、小柴胡湯(しょうさいことう)、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)、柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、抑肝散(よくかんさん)、柴胡清肝湯(さいこせいかんとう)、加味逍遙散(かみしょうようさん)などを症状や身体所見に合わせて使用します。処方の選択をする際には、腹部診察の所見が重要です。経験のある医師にご相談ください。 - 抑肝散(よくかんさん)
- 神経過敏、イライラが多い 等の場合
- 抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)
- 抑肝散で胃腸症状がある 等の場合
- 柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)
- 上腹部痛などの症状がある 等の場合
- 大柴胡湯(だいさいことう)
- 体力が充実、症状が強い、便秘 等の場合
- 四逆散(しぎゃくさん)
- 上腹部の強いはりや圧痛、四肢の冷え、手に汗をかく 等の場合
- 柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
- 精神症状、動悸 等の場合
- 小柴胡湯(しょうさいことう)
- 舌の苔が白い、口に苦い味がする 等の場合
- 加味逍遙散(かみしょうようさん)
- のぼせ、冷え、精神症状、症状が変化しやすい 等の場合
- 半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
- 喉が詰まった感じ、腹部膨満感、呼吸困難感 等の場合
⑤ 便秘
皮膚の治療の際には、便秘があれば合わせて治療を考える場合もあります。
一日二回、軽く下す程度が目安とされます。以下の処方などを考えます。
- 大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)
- 下腹部の炎症、お血 等の場合
- 桃核承気湯(とうかくじょうきとう)
- お血の症状で便秘がある場合など
- 通導散(つうどうさん)
- のぼせ、便秘、腹部膨満感 等の場合
- 腸癰湯(ちょうようとう)
- お血で便秘がある場合など
3. その他
① 化膿傾向が強い
- 排膿酸及湯(はいのうさんきゅうとう)
- 皮膚が化膿しやすい、または実際に化膿している 等の場合。
② 化膿が弱い
- 十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)
- 化膿しやすく繰り返す、小柴胡湯に似た体質 等の場合。
③ 頭部の症状で分泌物が多い
- 治頭瘡一方(ぢずそういっぽう)
- 頭部の症状が強い、髪の毛の中に皮疹ができやすい 等の場合。
アトピー性皮膚炎の漢方治療と現代科学
アトピー性皮膚炎に対する漢方薬を用いた治療に関して、科学的に二重盲検のRCT(ランダム化比較試験)で検証されたわが国の健康保険で使用できる処方は、消風散と補中益気湯です。
消風散は、ステロイドなどの抗炎症外用薬によって皮疹が軽快しない例に対して用いられ、プラセボ群に対して優位な皮疹の改善がみられました。補中益気湯は「疲れやすい」「体がだるい」「根気が続かない」などの症状を「気虚(エネルギーの不足)」としてとらえ、現代医学的な治療に併用して使用されプラセボ群に対してステロイド外用薬を減量できました。
アトピー性皮膚炎のまとめ
アトピー性皮膚炎は、ひどくなったり治まったりを繰り返すかゆみのある湿疹を主な症状とする病気で、日本には50万人以上の患者さんがいると考えられています。
アトピー性皮膚炎の治療の目標は、症状が無いかできるだけ軽い状態を目指し、日常生活に支障がなく治療もあまり必要でない状態を達成して、その状態を維持することです。
現代医学の標準治療では、ステロイドの塗り薬を中心とした治療を行います。
漢方では、皮膚の症状以外にも様々な要素に注目して治療を行います。当院では、現代医学の治療に加えて、漢方医学的な問診や腹部診断などを行いながら、患者さんお一人おひとりにとってその方に合ったより良い治療ができるよう取り組んでいます。
アトピー性皮膚炎でお悩みの際にはお気軽にご相談ください。
- 【参考文献】
-
- 1. アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会. アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018.
- 2. 二宮文乃.皮膚科疾患漢方治療マニュアル.現代出版プランニング.1998年第1刷
- 3. 二宮文乃.アトピー性皮膚炎の漢方診療マニュアル.現代出版プランニング.1996年第1刷
- 4. 大塚篤司.世界最高のエビデンスでやさしく伝える最新医学で一番正しいアトピーの治し方.ダイヤモンド社.2020年第1刷
- 5. 矢數道明.臨床応用漢方處方解説.創元社.2001年増補改訂版第十一刷
- 6. 佐藤弘.漢方診療ハンドブック.南江堂.2003年第4刷