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冷え性

冷え性

冷え性とは

冷え性の定義

冷え症に関して、日本東洋医学会のHPでは以下の様に述べられています。

冷え症は女性に多い悩みで、北里大学の調査によれば日本の女性の約半分が冷えで悩んでおられるとされます。冷え症は多くの方が悩んでいる症状ですが、正直、現代医学の臨床ではあまり重視されていません。
漢方や中医学では、冷えは大きく取り上げられ、様々な治療法が提唱されています。冷えの治療をまとめました。

女性の冷え症

冷え性の原因

①熱生産の異常

熱の原料となる食べ物の消化吸収が低下することや、過度のダイエットや運動不足なども原因となります。

②熱運搬の異常

全身に十分な血液がいきわたらなくなると、熱の運搬や新陳代謝が低下して冷えの原因になります。

③自律性体温調節反応の異常

体温の調節は無意識に行われ、自律神経が重要な役割を果たしています。自律神経の機能がストレスなどで障害されると、自律的な体温調節反応がうまく働かなくなり、冷え症の原因となります。

④気候への順応の異常

人体は気候の変化に合わせて熱生産などを調整して体温を維持しています。冷暖房の普及などの生活の変化で、人体の気候への順応能力が低下していることも冷えの原因となります。

漢方における冷えの考え方 ~冷え症と「陽虚」~

1)陽虚の診断とスコア表

日本の伝統医学である漢方や中国伝統医学の中で、冷え症はどの様に位置づけられているのでしょうか?また、診断や治療はどの様に行われているのでしょうか?
中国の中華中医薬学会が9種類の体質分類を提唱しており、その中に冷え症に関連した「陽虚」スコア表があります。まずは、これをご覧ください。

  ない 少し 時々 いつも 非常に
手足が冷たい 1 2 3 4 5
胃・背中・膝・腰が冷えやすい 1 2 3 4 5
冷えを感じ易く、他人より衣服が多い 1 2 3 4 5
周囲の人より寒さに敏感 1 2 3 4 5
風邪をひきやすい 1 2 3 4 5
冷たい食べ物が嫌い
冷たい食物で調子が悪くなる
1 2 3 4 5
冷たい物を食べると下痢しやすい 1 2 3 4 5

スコア合計

  • ≧18点:陽虚体質
  • 17〜16点:傾向あり
  • ≦15点:違う

中国伝統医学では、人体の状態は「陰」と「陽」に大きく分けられます。「陽」は日向のイメージで、温かい/動的/乾燥などの性質は陽に属します。「陰」は日陰のイメージで、冷たい/静的/湿潤などの性質は陰に属します。人体は、陰と陽の要素が動的な平衡状態を保つ形でなりたっており、陰と陽とのバランスがうまくとれている状態が健康です。

「陽虚」とは、陰と陽とのバランスが崩れ、「陽」の要素が「虚(不足)」している状態で、相対的に陰の要素が強く表れています。陽虚のスコア表に冷えに関係する症状が多く入っているように、冷え症も陽虚として扱われることが多い症状です。

2)陽虚の原因

以下、冷えと関連の深い陽虚に関して、原因や対策をまとめます。
冷えと先天的な体質の間には密接な関係があるとされます。遺伝などとも密接に関係し、両親が冷え症であること、また晩婚や早産などの要素は陽虚の原因になると言われています。後天的な要素として、食事や環境なども陽虚体質に大きく影響します。日常生活では、夜更かし/徹夜/睡眠不足も冷えの原因として重要です。それらに加えて、加齢による影響があります。

薬物による影響も陽虚体質を悪化させる要因の一つに数えられています。具体的な例として、抗生物質/利尿薬/解熱鎮痛薬などの長期の使用が挙げられます。
これらの要素が相互に影響を与え合い、陽虚の状態が生じます。

  陽虚の原因

3)陽虚と日常生活

陽虚の方で、冷えの治療や予防として日常生活で気を付けていただきたいことをまとめます。日常生活の改善として、やはり食事と運動が重要です。

①食事

陽虚体質では、体を冷ますとされる食材や、味の濃いものや脂っこくて消化の悪いものを避けることが重要です。

②運動

運動として、軽く汗ばむ程度の強度で体を動かすことがおススメです。太極拳などで体をゆっくりと動かすことが良いでしょう。また、歩くことも重要ですが、インターバル歩行(早歩き3分とゆっくり歩行3分を繰り返す)がより有効かもしれません。

運動
③服装

季節に合わせた服装を心がけ、特に冷えるシーズンには肌を露出させた服装は避けましょう。冷えが強い方は、貼るカイロなどでおへそと裏側の背中の2か所を温めることが有用です。この2か所には、重要なツボが集まっています。カイロなどで温める方法は、症状に応じて熱量を加減するため、カイロの大きさや温める時間を調整します。低温火傷には十分に気を付けてください。

冷えの部位と治療の方針

全身の冷え

生薬・附子(ぶし)を含む処方が奏功する場合があります。漢方的な考え方については、後で詳しく説明します。

熱のアンバランス

体の中で、寒さを感じる部位の違いにあわせて治療を考える場合があります。

①手足の冷え

手足が冷えることを「四逆(しぎゃく)」と呼びます。四逆の名を持つ漢方薬は、手足の冷えを目標に使われる場合があります。

四逆散(しぎゃくさん)
ストレス/真面目な性格/手汗が多い/責任のある職業やポジション 等がある場合
四逆湯(しぎゃくとう)
全身性の冷え/だるさ/他の漢方薬が無効 等がある場合
当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)
しもやけ/特徴的な脈/冷えで悪化する痛み 等がある場合
②下半身の冷え
八味地黄丸(はちみじおうがん)
腰痛/下半身の症状/加齢症状/頻尿 等がある場合
牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)
八味地黄丸よりも症状が重い場合
苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)
水につかっているような下半身の冷え/腰の重さ 等がある場合
③頭ののぼせと足の冷え

体の上下で熱のアンバランスがあり、「上熱下冷」と呼ばれる症状がある場合。

五積散(ごしゃくさん)
腰/股/下腹部の冷え痛みがある場合
温経湯(うんけいとう)
唇の乾燥/手のほてり/産科婦人科領域の症状 等がある場合
④一部分の強い冷え

白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)が効く場合があります。口喝がひどい場合に考慮します。

⑤自覚症状と他覚所見に差がある場合、①~④が奏功しない場合

痔核的な冷えと他覚的な所見が一致しない場合や、一般的な温めるタイプの処方で奏功しない場合などに、柴胡剤が効く場合があります。

⑥寒疝

慢性に経過する疼痛(特に腹痛)で、寒冷刺激で症状がひどくなるものを「寒疝(かんせん)」とよびます。以下の処方を用いることがあります。

当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)
特徴的な脈/しもやけ/産科婦人科的な症状 等がある場合
大建中湯(だいけんちゅうとう)
腹痛/腹部のガス貯留 等がある場合
桂枝加附子湯(けいしかぶしとう)
汗が出る、四肢の進展にこわばりがある 等がある場合

漢方を用いた冷え性の治療

漢方を用いた頭痛の治療

気/血/水の分類に基づいた冷えの治療

漢方には、人体を「気/血/水」の3要素に分類して病態を整理する考え方があります。「気/血/水」は、相互に影響を与えあいながら体の中を流れており、生命活動をコントロールしています。「気/血/水」が現代医学の何に相当するかは明らかにされておらず、便宜的な分類と考えて話を進めます。

漢方や中国伝統医学では、「気」を非常に重視します。「気」は、非常に強いエネルギーを持つとされ、陽に属しています。「気」という言葉は様々な意味を持ちますが、人体における「気」は、①生命エネルギー②感情(気持ち)③ガス(気体)などの要素に分けて考えるとイメージしやすくなります。「気」には多くの働きがあり、その中でも人体の体温を保つ働き(温煦作用)は、冷え症と非常に大きな関係を持つ作用です。「気」は「血」や「水」の運行に大きな役割を果たしますが、「血」や「水」にトラブルがあると「気」の運行が妨げられることがあります。
以下、この分類に関連した冷えの治療を論じます。

気虚(ききょ)[気の不足]

気のパワーは、体を温める原動力です。また、気を増やすことを考える際には、胃腸の調子を整えて消化吸収の能力を高めることが重要です。

補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
疲れやすい/手足のだるさ/声や目や脈に力がない/食べ物の味を感じにくい/熱い食物を好む/口内に白泡ができやすい/臍付近に動悸を触れる 等がある場合
六君子湯(りっくんしとう)
舌に歯形/腹部診察で胃にチャポチャポ音がする/舌の白苔 等がある場合
帰脾湯(きひとう)
胃腸虚弱/精神的な症状 等がある場合
加味帰脾湯(かみきひとう)
帰脾湯+熱の症状 等がある場合
十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
補中益気湯+血虚(乾燥肌など)等がある場合
人参養栄湯(にんじんようえいとう)
十全大補湯+呼吸器症状(咳/痰/息切れ)等がある場合
大防風湯(だいぼうふうとう)
十全大補湯+下半身の症状 等がある場合
小建中湯(しょうけんちゅうとう)
小児で胃腸虚弱や腹痛 等がある場合
人参湯(にんじんとう)
胃もたれ/食欲不振 等がある場合
四君子湯(しくんしとう)
疲れやすい/胃腸虚弱 等がある場合
大建中湯(だいけんちゅうとう)
腹痛/腹部のガス貯留 等がある場合

血虚(けっきょ)[血の不足]

「血」が「虚(不足)」している状態で、肌の乾燥など様々な症状が生じます。「四物湯」の要素を含む漢方薬をよく用います。

四物湯(しもつとう)
血虚があれば幅広く活用される。様々な処方に基本構成として含まれる
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
むくみ/産科婦人科系の症状 等がある場合
温経湯(うんけいとう)
唇の乾燥/手のほてり/産科婦人科系の症状 等がある場合
五積散(ごしゃくさん)
上半身の熱感と下半身の冷え/腰痛/股痛/下腹部痛 等がある場合
芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)
出血傾向 等がある場合
芎帰調血飲(きゅうきちょうけついん)
産後の諸症状 等がある場合
滋陰降下湯(じいんこうかとう)
呼吸器科/泌尿器科関連の症状 等がある場合
疎経活血湯(そけいかっけつとう)
筋肉痛/関節痛/神経痛 等がある場合
当帰飲子(とうきいんし)
皮膚乾燥 等がある場合

お血(おけつ)[血のめぐりが悪い]

産科婦人科領域の症状と冷えが合併している場合などの治療で重要です。血虚とお血は相互に関連が深く、治療では重複した部分が多くあります。

桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
お血に幅広い適応/産科婦人科の症状 等がある場合
桃核承気湯(とうかくじょうきとう)
重度のお血/便秘/精神症状 等がある場合
加味逍遙散(かみしょうようさん)
のぼせと冷え/更年期障害 等がある場合
通導散(つうどうさん)
エキス剤で最も効力が強いお血の薬とされる。
女神散(にょしんさん)
上半身ののぼせ/めまい/精神症状 等がある場合

水毒(すいどく)[水のめぐりの悪さ]

五苓散(ごれいさん)
水毒に幅広い適応、口の渇き/頭痛/尿が少ない 等がある場合
真武湯(しんぶとう)
胃腸虚弱/めまい/下痢 等がみられる場合

冷えがなかなか治らない場合

上記の治療でもなかなか冷えが取れない場合、「潜病」と考えて四逆湯とその関連処方を用いることがあります。

冷え性で気を付けるべき疾患

冷え性の診断に関して、注意しておくべき現代医学的な疾患を以下に挙げます。この他にも様々な疾患がありますので、気になる症状がある場合には各々の分野の専門家への受診をお勧めします。

冷え性で気を付けるべき疾患

冷え性全般

①甲状腺機能低下症

寒がり/無気力/疲労感/むくみ/体重増加/動作緩慢/記憶力の低下/便秘 など多彩な症状が出現します。

②レイノー現象

冷たいものを触ったり、冷たい外気にさらされた時に、指が真っ白~紫色になります。様々な膠原病に共通する症状で、専門医への受診をお勧めします。

③貧血

頭痛/めまい/耳鳴り/集中力の低下/不眠/疲れやすい/手足の冷えなどの症状が出る場合があります。

④産科婦人科

更年期障害などでさまざまな身体所見の一つとして冷え性が起こることがあります。

⑤薬剤性

四肢の感覚障害

感覚障害(感覚低下/知覚過敏/異常知覚)、疼痛(冷感を含む)/運動障害を生じる疾患として、以下のものに注意する必要があります。

1.突発的
突発性+異常知覚/疼痛/蒼白/脈の減弱/麻痺があれば、循環器内科や血管外科を受診されることをお勧めします。
※血管障害を除外(急性の動脈閉塞症/脳血管障害/脊髄障害)
2.急性~亜急性(数日~数週間)
コンパーメント症候群/多発性硬化症/Guillain-Barré syndrome/絞扼性末梢神経障害/帯状疱疹 など
3.慢性~緩徐(数か月)
糖尿病性神経障害/傍腫瘍症候群/ビタミン欠乏症(ビタミンB群など)/脊髄障害(頚椎症/椎間板ヘルニア) など

冷え性のまとめ

冷え症は、悩んでいる人が多い症状ですが、現代医学の中でしっかりした地位を確立しているとは言い切れません。日本や中国の伝統医学では、古来より冷えに注目した様々な治療法が研究されてきました。この項目では主に漢方薬を用いた治療についてまとめましたが、鍼灸や按摩などが有効な場合もあります。

当院でも冷え性でお悩みの方が多くいらっしゃいますが、診察を通じてその方の症状や生活環境に合わせて最も適切な治療を考えてご提案しています。漢方では、医療者と患者さんが協力してより良い治療を作っていくことに特徴があります。日常生活で、少しでもお困りのことがございましたらどうぞお気軽にご相談にいらしてください。

この項目が冷えの悩みに対する対策の一助となれば幸いです。

【参考文献】
  • ・日本東洋医学会 漢方医学での病態生理 冷え
  • 日本内分泌学会
  • ・公益社団法人日本皮膚科学会 膠原病
  • ・滋賀医科大学付属病院.TOPICS.Vol24.2003.6.01
  • ・公益社団法人日本産科婦人科学会 更年期障害
  • ・蓑田正祐ら.増刊レジデントノート キーワードから展開する責める診断学.羊土社.2012
  • ・大塚敬節ら.漢方診療医典.南山堂.2001年第6刷
  • ・佐藤弘.漢方治療ハンドブック.南江堂.2003年第4刷
  • ・矢數道明.臨床応用漢方處方解説.創元社.2001年増補改訂版第十一刷
  • ・渡邉賀子監修.漢方セミナー冷えと漢方.日本漢方生薬製剤協会.平成16年
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