阪急神戸線「夙川駅」より徒歩約2分、西宮市羽衣町の「漢方内科・内科しずかクリニック」です。

お血と産婦人科漢方

お血の漢方治療

産婦人科とがん漢方

『お血』は、婦人科の漢方治療を理解するうえで非常に重要な要素です。また、がんの漢方治療においても、欠かせない要素でもあります。ここでは、まずお血の考え方と診察法を紹介し、重要な治療薬の説明と使い分けもお伝えします。

◎『お血』とは?

まずは、漢方における6大病態についてお話します。
漢方を学ぶ上で、人体を『気/血(けつ)/水(すい)』の3要素に分けて病態を分類すると理解しやすいので、その立場から整理していきます。『気/血/水』は人体をめぐる『流体』であり、スムーズに流れていれば健康です。
逆に、病気とは『気/水/血』のめぐりが悪い状態であると言えます。

めぐりが悪い状態には、『量が足りないから、めぐらない(虚)』と『量があっても、めぐらない』の2種類があります。3要素×2病態で6種類の病態があり、これが漢方診断の基本となります。

漢方診断の6大分類

お血は、『血(けつ)』の『量があってもめぐりが悪い』状態です。
診断方法として、中華中医薬学会から分類法が提唱されています。これは、医療者の診察を必要としないので使いやすいので、例として挙げておきます。

原典は『血瘀』となっており、細かく分類すると話がややこしくなるので、ここでは立ち入りません。

◎血瘀タイプスコア

    ない 少し 時々 いつも 非常に
1 知らぬ間に皮膚に青アザ・皮下出血ができる 1 2 3 4 5
2 頰に細かい赤い血管が浮き出ている 1 2 3 4 5
3 体に痛むところがある(刺すような痛みが多い) 1 2 3 4 5
4 顔色がどす黒い
顔に褐色の斑点ができ易い
1 2 3 4 5
5 目にクマができやすい 1 2 3 4 5
6 物忘れが多い 1 2 3 4 5
7 唇の色が悪い 1 2 3 4 5

スコア合計

  • ≧18点:血瘀タイプ
  • 16〜17点:傾向あり
  • <15点:違う

また、日本では寺澤 捷年先生によって、スコア表が提唱されています。こちらは診察を必要とします。

◎お血スコア

  男性 女性
  高度 軽度 なし 高度 軽度 なし
眼瞼部の色素沈着 10 5 0 10 5 0
顔面の色素沈着 2 1 0 2 1 0
皮膚のあれ,ザラツキ、皺裂 2 1 0 5 2.5 0
口唇の暗赤化 2 1 0 2 1 0
歯肉の暗赤化 10 5 0 5 2.5 0
舌の黒赤紫化 10 5 0 10 5 0
毛細血管拡張、クモ状血管腫 5 2.5 0 5 2.5 0
皮下溢血 2 1 0 10 5 0
手掌紅斑 2 1 0 5 2.5 0
臍傍圧痛抵抗 左 5 2.5 0 5 2.5 0
臍傍圧痛抵抗 右 10 5 0 10 5 0
臍傍圧痛抵抗 中央 5 2.5 0 5 2.5 0
回盲部圧痛・抵抗 5 2.5 0 2 1 0
S状部圧痛抵抗 5 2.5 0 5 2.5 0
季肋部圧痛抵抗 5 2.5 0 5 2.5 0
痔疾 10 5 0 5 2.5 0
月経障害 0 10 5 0

スコア合計

  • 20点≦:お血ではない
  • 21点≦:お血病態
  • 40点≦:重症のお血

(寺澤捷年.症例から学ぶ和漢診療学第2版.医学書院.2003年第2版.47 表は院長制作)

さて、『お血』とは、一体どのような病態であるのか?これに対し、様々な意見が提唱されています。実際には、『お血に効くとされる治療をして病態が良くなるのが、結果としてお血である』という意見が最も現状に則していると考えています。

もともと、『気/血/水』は、病態を整理し理解するための仮想の概念です。用語自体を詳しく論じることは、学問として意味がありますが、そこに拘泥していては臨床に役に立つという本来の目標を忘れてしまいかねません。

『漢方では、血(けつ)の量があってもめぐりが悪い病態のことを、お血と呼ぶ。』という理解で、話を先に進めます。

お血の身体所見として、下腹部の圧痛と舌下静脈の怒張が重要です。
下腹部の圧痛は、以下の部分に圧痛や抵抗感がみられます。

瘀血の身体所見

舌下静脈の怒張は、舌を上に挙げた際に、舌の裏側の静脈で評価します。
静脈が長く見える場合、太い場合、広くみられる場合に、所見ありとします。
お血を診断したところで、治療法を説明していきます。

お血と産婦人科の4大処方

お血に対して使う漢方薬を『駆お血剤』と呼びますが、代表的な漢方薬として、3大処方が挙げられます。
①当帰芍薬散、②桂枝茯苓丸、③桃核承気湯

これに④加味逍遙散を加えたのが、産婦人科漢方の中心となる4大処方です。この4種類の漢方薬を使いこなすことが、婦人科治療で非常に重要となります。

また、癌の漢方治療においても、4大婦人科処方は重要な役割があります。

コレだけでOK!?産婦人科の4大処方 当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、桃核承気湯、加味逍遙散

4大婦人科処方の使い分けに関して、注目点を表にしましたので、ご覧ください。
その後に、各々の処方に関して説明していきます。

4大処方の使い分け 当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、桃核承気湯、加味逍遙散
産婦人科4大処方 ~当帰芍薬散~

当帰芍薬散は、『中国生まれの日本育ち』と言える処方です。
原典は中国の古典で、歴史は非常に古いのですが長らく日の目をみませんでした。そんな当帰芍薬散が広く活用され始めるのは、江戸時代に入ってからとされます。日本の漢方を方向づけた吉益東洞、彼の息子である吉益南涯が様々な症状に用い始めたのが、端緒であるとされます。現在では、故郷の中国でも、当帰芍薬散は様々な症状に活用し始めました。

当帰芍薬散は、『血虚(『血の不足』)』の代表的な治療薬である『四物湯』と、『水毒』の代表的な治療薬である『五苓散』を加えて調整したような構成です。『血虚』と『お血』は共通する部分も少なくなく、四物湯を構成する生薬はお血を治療する作用も期待されています。

当帰芍薬散は、『冷え』と『むくみ』を目標に、様々な産婦人科の症状に対して活用されています。

当帰芍薬散を用いる際、診察における身体所見は、振水音(腹部をたたくとチャポチャポ音がする)と、歯圧痕(舌に歯形がある)です。下腹部の圧痛は、一般的にはあまり強くない場合が多いとされます。

当帰芍薬散の身体所見

個人的には、竹下夢二の絵画のイメージが典型的だと思っています。色白で、体力は弱め、むくみ、冷え症がありそう、そんな感じの方の諸症状に効く漢方薬です。

当帰芍薬散のイメージ 竹下夢二
産婦人科4大処方 ~桂枝茯苓丸~

桂枝茯苓丸は、お血に関した様々な症状に対し幅広く使われている処方です。他の漢方薬との相性も良く、幅広い組み合わせが可能で応用がききます。女性限定ではなく、男性にも頻繁に用いられます。

身体所見として、体格はしっかりしていて、赤ら顔が多く、腹部の筋肉はしっかり発達していることが多いです。舌下静脈の怒張と下腹部の圧痛を目標とします。下腹部の圧痛に関して、左の方が強いとされますが、特にこだわることはないと感じています。

桂枝茯苓丸と桃核承気湯の鑑別に関して、桂枝茯苓丸では症状が固定的で静的であるとされます。
何か特徴的な身体所見や症状に用いるというより、お血を目標に幅広く活用する薬であるという感じで位置づけておく方が、桂枝茯苓丸をより活用できると思います。

桂枝茯苓丸の身体所見
産婦人科4大処方 ~桃核承気湯~

桃核承気湯は、お血の治療に使われる『駆お血剤』の中で比較的薬力の強い薬であるとされ、体力や症状の比較的強い人に使うことが多い漢方薬です。

生薬・大黄を含むため、便秘の人に用いることが多い処方で、冷えのぼせや頭痛、月経時の精神症状などにも用います。腹部診察で、左下腹部の腸骨窩に強い圧痛や擦過痛があるとされますが、必ずしもこだわる必要ありません。
月経の時に便秘する場合には、その時期だけ内服する形で治療することもあります。

同じく産婦人科の4大処方のひとつである桂枝茯苓丸との鑑別は、桃核承気湯の方がより動的な症状に対して使われるとされています。
実際に処方する場合は、就寝前に少量から始めて、便通の様子を見ながら調整すると用量を調整しやすいです。

桃核承気湯の身体所見
産婦人科4大処方 ~加味逍遙散~

加味逍遙散は、『更年期障害と言えば、まずはコレ!』というぐらい、有名な漢方薬です。まずは、名前から薬の適応を判断できます。

  • 『加味』は、生薬をプラスしているという意味。元々『逍遥散』という薬があり、それに生薬をプラスしています。
  • 『逍遥』:[名](スル)気ままにあちこちを歩き回ること。そぞろ歩き。散歩。(注1)
  • 『散』は、散薬。粉薬です。

つまり、『生薬をプラスしてパワーアップ!気ままに動くような症状を治療する粉薬』です。多種多様な症状が出たり消えたりする更年期障害には、ピッタリな処方ですね。

日本産科婦人科学会のHPによれば、更年期障害は主に3つに分類され、様々な症状が挙げられています。(注2)

  • ①血管の拡張と放熱に関係する症状
    ほてり、のぼせ、ホットフラッシュ、発汗など
  • ②その他のさまざまな身体症状
    めまい、動悸、胸が締め付けられるような感じ、頭痛、肩こり、腰や背中の痛み、関節の痛み、冷え、しびれ、疲れやすさなど
  • ③精神症状
    気分の落ち込み、意欲の低下、イライラ、情緒不安定、不眠など様々な症状が挙げられています。(注2)

加味逍遙散は、特にホットフラッシュを目安に使われる処方です。もちろん、その他のいろいろな症状もカバーします。漢方的では、人体を『気/血/水』の3要素に分けて病態を把握しますが、加味逍遙散は、『気/血/水』にバランスよく働く生薬の組み合わせです。

加味逍遙散は、江戸時代から『婦人一切の申し分に用いてよく効く也』と言われるぐらい、古くからよく用いられている漢方薬です(注3)。日本で最大の漢方薬メーカー・ツムラ社の『2018年3月期 第3四半期』決算表では、売り上げで第6位の薬でした。
今日もどこかで、悩める方の力になっています。

【参考サイト・文献】
  • (注1)コトバンク 逍遥とは
  • (注2)日本産科婦人科学会 更年期障害とは
  • (注3)更年期障害 百々漢陰.鳩窓『梧竹楼方函口訣』

駆お血剤とがん漢方

今まで、産婦人科での使われ方を例に挙げながら、産婦人科の4大処方を中心としたお血の治療を説明してきました。

実は、お血とその治療薬は、がんの漢方治療でも重要な役割を果たしています。
漢方や中医学では、お血と慢性疾患の間には密接な関係があると考えます。実際にがんの患者さんを診察すると、舌下静脈の怒張や下腹部の圧痛などのお血の所見が強くみられることが多いのです。

私のがん漢方の師匠である星野惠津夫先生は、がん治療のメッカである東京のがん研有明病院で漢方サポート外来を設立し多くのがん患者さんを漢方で治療しました。その星野先生の治療法は、以下の組み立てを骨格とします。

癌証に対する漢方治療の組み立て

①の部分、がんに対する補剤の段階的な使用に関しては関連する項目をご覧くだい。
この中で③に当たる、駆お血剤の使用法に関して説明します。

 

がんの病態は、現代医学的にも様々な要素が相互に関連した複雑な病態ですが、漢方的な見方に立っても『気/血/水』や五臓六腑の病態が複雑に入り混じった状態です。がん漢方では、がんやがん療によって気力や体力が低下した状態である『癌証』の方を主な対象として治療する場合が多く、その為に上の図の①補剤と②補腎剤を中心に治療を組み立てる場合が多くなります。

しかし、補剤や補腎剤の使用だけでは、お血を除く力が強くない場合がでてきます。その為に、就寝前に駆お血剤を内服するなどの形でお血に対する治療をプラスして、複雑に入り組んだがんの病態の改善を目指します

複数の『病毒』が体の中に存在する場合には、単一の処方の実で対応することは困難であるという考え方を『併病理論』と呼び、これががん漢方を理解するうえで重要な観点です。また、主な病態とは独立して存在する病態に対して使用される処方『兼用方』と呼びますが、がん漢方における駆お血剤の使用は多くの場合でこの兼用方に当たります。

次に、産婦人科とがん漢方の具体例をお示しするために、更年期障害を例に挙げて具体的な治療を説明します。

婦人科漢方

更年期障害の症状

更年期障害は、閉経の前後5年ずつの時期に出る様々なつらい症状です。しかし年齢で自然に来るものだけでなく、病気の治療などによって、更年期障害のような症状が出ることがあります。

具体的な例を挙げれば、乳がんの治療などでホルモン療法を行った際に、ホットフラッシュなどの症状が出ることがあります。(注1) 漢方的では、原因に拘らずに診察し、漢方的に診断した病態に応じて治療を行います。自然に生じた更年期障害でもホルモン療法の影響によるものでも、結果として同じ治療法になる場合も多いので、それを説明します。

その際に、漢方ではどの様な治療をするのか?これに関して、私の『がん漢方』の師匠である星野先生の治療を説明します。基本的には、以下のような『柴胡剤+駆お血剤』の組み合わせを用いることが多いです。この場合は、柴胡剤も駆お血剤も全量で用います。

  柴胡剤 駆お血剤









大柴胡湯
四逆散
柴胡加竜骨牡蠣湯
小柴胡湯
柴胡桂枝湯
柴胡桂枝乾姜湯
補中益気湯

(+α加味逍遙散)
桃核承気湯


桂枝茯苓丸


当帰芍薬散


※表中の「強 ⇔ 弱」は、一般的に言われる薬効の強さ。病状に合わせて使う。

『柴胡剤』は、生薬・柴胡を含む漢方薬のグループです。臨床での使用に際して、漢方的な腹部診察が重要ですが、それに関する話はまた機会を改めます。

『駆お血剤』は、産婦人科の4大処方『桃核承気湯、桂枝茯苓丸、当帰芍薬散・加味逍遙散』を用いる場合が多いです。加味逍遙散は、生薬・柴胡も含むため、今回は柴胡剤の扱いです。

基本的に、『柴胡剤』から1種類+『駆お血剤』から1種類の組み合わせで治療します。 私は、基本的に、まずは師匠直伝の星野先生流の処方を治療のベースとして、それから個々人の病態に合わせて調整していく形で治療方針を組み立てることが多いです。

この時点で先の表のとおりだと、柴胡剤8種類×駆お血剤3種類8×3の24通りの組み合わせができてしまいます。(実際には、表以外の駆お血剤も使うと、かなりの数になってしまいます。)表の中からよく使う組み合わせをリストアップしておきます。

湯本求真は、明治時代に、近代医学一辺倒の時代の中で漢方の重要性を主張した近代日本漢方界の代表的な名医です。湯本の診療録が遺されており、彼が愛用した組み合わせベスト3は、

  • ・『大柴胡湯+桃核承気湯』
  • ・『小柴胡湯+当帰芍薬散』
  • ・『大柴胡湯+当帰芍薬散』

です。

『体力がある、または病勢が強いと判断したら、大柴胡湯+桃核承気湯』、『体力がない、または病勢が弱いと判断したら、小柴胡湯+当帰芍薬散』、この組み合わせで治療したなんて話もあるぐらい、よく使われた組み合わせだったようです。
また、湯本式の治療では、通常量よりもかなり多い生薬量での処方例がみられます。

院長は、それらに加えて、補中益気湯+当帰芍薬散、柴胡桂枝乾姜湯+当帰芍薬散をよく使います。
最近では、四逆散を使う場合が多いと感じていますが、興味深い効き方をする薬です。診療をしているうちに、得意処方なんかも出てきます。いろいろと考えて活用し、自分なりの処方の組み合わせや使用法なんかを探してみるのも良いかもしれません。ひょっとすると、新たなすごい組み合わせが生まれてくる!カモしれません。

漢方では、『異病同治』の原則があり、漢方的に同じ段階と判断すれば、現代医学的な病名が違っても、同様の治療を行います。また逆に、『同病異治』の原則もあって、同じ病名でも治療法が異なる場合があります。

問診、腹部診察などを組み合わせ、いかに症状に合った薬を選び出すか?
漢方治療の醍醐味で、一番難しい部分であり、同時に独特の魅力でもあります。

【参考文献】
  • 新谷壽久.皇漢医学・湯本医院の診療録の処方箋.日東医誌.Vol66.No.1.2015.61-66
  • (注1)治療に関する詳しい話は、日本乳がん学会などでも診療ガイドラインが公開されていますので、そちらをご覧ください。

【補足】「ホルモン療法に漢方治療を併用すると、せっかくホルモン療法をしているのに、療法の効果を減らすのではないか?」という意見もありますが、星野先生によれば特に問題はないそうです。むしろ、つらい症状をうまくコントロールできれば長い期間にわたってホルモン療法を行うことができ、患者さんにとって大きな利益となるとの話でした。

お血と産婦人科漢方 まとめ

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